何らかの事情があって,自分の死後は相続人でない者に自分の財産を取得させたい,という場合には遺贈という手段が用いられます。生前に単純な贈与をした場合は贈与税の対象となり,多額の税金が課せられることにもなりかねませんが,遺贈の場合には相続税との対象となりますので,単純な贈与と比較して税務面でのメリットがあるといえます。
遺贈には,財産の割合を示して行う包括遺贈と具体的な財産を指定して行う特定遺贈とがあります。注意すべきなのは,包括遺贈の場合には,プラスの財産のみならず,マイナスの財産も承継されることになる点です。この点は,包括遺贈を受けた受遺者は,基本的には相続人の地位を取得するものと理解すればよいでしょう(民法990条)。
そのため,遺贈は,いつでも放棄をすることもできるとされています(民法986条),包括遺贈に関しては,相続人と同様に扱われるため,放棄をする場合は,遺贈を知ったときから3か月以内に家庭裁判所に放棄の申述をしなければならないと解されています(東京地方裁判所 昭和55年12月23日判決)。
なお,例えば,全部包括遺贈が行われたりすると,受遺者と相続人との間で遺留分をめぐるトラブルに発展する可能性が高いので,遺贈をする側も,される側も留意すべきでしょう。
民法
(遺贈の放棄)
第九百八十六条 受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。
2 遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
(包括受遺者の権利義務)
第九百九十条 包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。