契約に際して,合意管轄を定めることがあります。例えば,「本契約に関連して甲乙間に生じる一切の紛争は名古屋地方裁判所を(専属的)管轄裁判所とする。」というような条項です。本来,管轄裁判所は民事訴訟法の規定により定められるのですが,契約当事者間で書面による合意をすることで管轄裁判所を定めることができるのです。
ところで,管轄の合意には,専属的合意と付加的合意とがあることには留意が必要です。専属的合意は,契約書に記載された裁判所「のみ」を管轄裁判所とする合意であり,付加的合意は,法定の管轄裁判所に加えて契約書に記載された裁判所「も」管轄裁判所とする合意です。したがって,契約書の文案を作成する側からすれば,専属的合意をしたいならその旨明記すべきですし,また,文案を検討する側からすれば,専属的合意管轄との文言がある場合には,本当にその合意をしてよいのか慎重に検討すべきです(契約時点においては裁判沙汰になることは通常想定しないため,検討がおそろかになることが多いと思いますが,契約当事者の本店所在地が距離的に離れている場合等は,裁判の際の管轄裁判所は大きな意味を持ちます)。
もっとも,専属的合意があっても,当事者間の衡平の観点等から他の裁判所に移送される可能性もあります(民事訴訟法17条~19条,20条1項)。
第十一条 当事者は、第一審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができる。
2 前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない。
3 第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。
第十七条 第一審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、当事者及び尋問を受けるべき証人の住所、使用すべき検証物の所在地その他の事情を考慮して、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部を他の管轄裁判所に移送することができる。
第十八条 簡易裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、相当と認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部をその所在地を管轄する地方裁判所に移送することができる。
第十九条 第一審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、当事者の申立て及び相手方の同意があるときは、訴訟の全部又は一部を申立てに係る地方裁判所又は簡易裁判所に移送しなければならない。ただし、移送により著しく訴訟手続を遅滞させることとなるとき、又はその申立てが、簡易裁判所からその所在地を管轄する地方裁判所への移送の申立て以外のものであって、被告が本案について弁論をし、若しくは弁論準備手続において申述をした後にされたものであるときは、この限りでない。
2 簡易裁判所は、その管轄に属する不動産に関する訴訟につき被告の申立てがあるときは、訴訟の全部又は一部をその所在地を管轄する地方裁判所に移送しなければならない。ただし、その申立ての前に被告が本案について弁論をした場合は、この限りでない。
第二十条 前三条の規定は、訴訟がその係属する裁判所の専属管轄(当事者が第十一条の規定により合意で定めたものを除く。)に属する場合には、適用しない。